業界トップの正確率で作業効率爆上げ!
『方向を間違えたり、やりすぎたりしないようにするには、まず本当は重要でもなんでもない1000のことにノーと言う必要がある』ーーAppleの創業者である故スティーブ・ジョブスの言葉です。さて、あなたの組織では、何が必要で何が必要でないか、社員全員が共通認識を持ち同じベクトルを向いていますか?
組織全体が共通の目的に向かって透明性を持って動き出すためのOKR。OKRは新人からベテランマネージャーまで、誰もが個人の技量に頼らず企業力を強められる、いま注目の目標管理フレームワークです。OKRで最も大切なのは、目的を達成するための「Key Results(主要な結果)」の選び方。本記事ではOKRの概要からMBOやKPIとの違いまで、できる限り網羅的に解説しました。
OKRとは、Objectives and Key Resultsの略で、目標を設定・管理するためのフレームワークです。OKRはアメリカのインテル社で1970年代に初めて導入されました。インテルの元会長兼CEOであるアンディー・グローブ氏が、メモリー事業からマイクロプロセッサーにコアビジネスを転換する際に開発したツールとして知られています。
OKRは「Objectives(定性的な目標)」と「Key Results(主要な結果)」という2つの要素で運用されます。定性的な目標と定量的な結果指標を併せ持つ点が特徴で、何をどのように達成するのか、この問いに答えることだといえます。
例えば「地元で愛される和食屋を作る」というObjectivesを設定した場合の具体例を考えてみます。
Objectives→地元で愛される和食屋を作る
Key Results(1)→イートイン月の売り上げ200万以上
Key Results(2)→持ち帰り月の売り上げ100万以上
Key Results(3)→店員を5人採用する
OKRは、マネージャーやリーダーなどの個人のカリスマ性に頼るのではなく、人材が入れ替わっても再現性が高い方法です。従来のフレームワークに比べて高い頻度で設定・追跡・再評価するため、個人では達成し得ない大きな成果を生み出せるようになります。
ムーンショットとルーフショットの意味を知ることは、OKRを設定する上で非常に大切です。ここでは、OKRの理解に役立つ2つの目標の種類を理解していきましょう。
「ムーンショット」とは「月に届くほどのショット」という意味で、実現が容易でない課題に挑戦することです。あまりに無謀であると言われたアポロ計画が8年後には実現してしまったことからその名が付けられました。ムーンショットは、達成水準が60〜70%という達成が困難な目標です。10年後、5年後というように遠い未来から逆算して設定されます。注意点としては、メンバーの自信を失わないために、業績が下がり気味の企業ではムーンショットは避けるようにしましょう。
「ルーフショット」は「屋根に届くほどのショット」という意味です。成功確率100%を狙える達成難易度が低い目標を指します。未来から逆算して設定されるムーンショットに対して、過去の実績や現在の成長率など現在の状況を加味して設定されるのが特徴です。
OKRは「Objectives(定性的な目標)」と「Key Results(主要な結果)」という2つの要素で成り立っています。目標を達成するためのマイルストーンが「Key Results」であり、正しいマイルストーンを辿ることで着実に目標達成を目指せます。
まず、OKRの段階構造を大まかに下記の図で確認してみましょう。この図の通り、目標は企業全体、部署として、チームとして、個人として設定できます。大切なのはそれら全てに一貫性を持つことです。
OKRの大まかな段階構造が理解できたところで、OKRがどのような目標管理方法なのか、要素を分解することで掘り下げていきます。
OKRの「O」は企業が目指すべき定性的な目標を指します。対象の質的側面に注目する定性的という点がポイント。「売り上げを3倍にする」といった定量的な目標は省きましょう。Objectivesを決定する際のポイントは下記の3点です。
定性的な目標にする
1〜3ヶ月で達成できる目標にする
シンプルでわかりやすい目標にする
「O」を設定する際は、企業の「MVVモデル」に立ち返って考えてみましょう。MVVモデルとは、ミッション・ビジョン・バリューの頭文字を取ったもので、それぞれ企業の存在意義・達成したい将来像・提供する価値を表します。
「O」を設定するときに大切なのは、挑戦的で魅力的な目標を立てること。実現可能な目標では、挑戦する人の心はワクワクしませんよね?挑戦的であることで社員全員が高みを目指すモチベーションを持つことができます。
新入社員のとき、期待に胸を膨らませて思い描いた夢を思い出してみましょう。大きな目標というのは、こうしてみたい、ああしてみたいと想像する夢の中に隠れているものです。
また、 社員一人ひとりにとって魅力的であることも大切。魅力的な目標に向かって社員一丸となることは社員同士の団結を強めるだけでなく、その過程を見ているお客様やユーザーにも感動を与えることができます。
OKRの「KR」は企業が目指すべき定性的な目標への進捗度をはかるための指標や基準のこと。抽象的な面に注目する「Objectives」に対し、数字つまり定量的な値を設定する点が重要です。Key Resultsを設定する際は下記の4点に気をつけましょう。
定量的な目標にする
認識のズレがないよう明確で具体的な判断基準で設定する
60~70%の達成度で成功とみなす
1つのOに対して3〜5つ設定する
また、KRは「行動ベース」ではなく「価値ベース」で設定することが大切です。例えば行動ベースの場合「1日100件営業の電話をする」「1回3時間以上研修を行う」など手段の目的化を招いてしまいます。「今日は100件電話をしたので目標達成」というように行動して満足してしまうことにもなりかねませんので、注意が必要です。
OKRの自信度とは、設定したKRを達成するための自信を測る自己申告指標のこと。完全に達成できる自信がある場合は「自信度10」に、達成できる自信が半分くらいの場合は「自信度5」に、達成が不可能である場合は「自信度0」とします。
自信度10の場合は達成が容易な「ルーフショット」となりますし、自信度0の場合は達成が困難な「ムーンショット」として、再度目標の設定の参考としましょう。OKRのKey Resultsは自信度5くらいのものを設定するとよいとされています。
OKR期間が終了したら、達成度のスコアリングを行いましょう。スコアリングは「0.0〜1.0」もしくは「%」で行います。KR(Key Results)として設定した数値目標が後のスコアリング基準になることからも、定量的目標を正しく定めることの大切さがわかるでしょう。最終的にKey Resultsの平均スコアがObjectivesのスコアとなります。
OKRは目標に向けて着実にステップアップできるため、大企業だけでなく、やるべきことが多いスタートアップ企業にも最適です。ここでは、OKRを上手く運用するための3つのポイントをまとめました。
O(Objectives)はできる限り高いレベルに設定しましょう。OKRは報酬制度とはかけ離れたフレームワークですので、社員が一丸となってチャレンジできるものにすることをおすすめします。
社内全体で1つの目標を共有するOKRでは、各部門の連携が大切です。業務管理ツールを使って、各部署のタスクや成果を見られるようにするなど、透明性と可視化を意識してください。
こまめに進捗状況を確認することで、タスクの不透明化を防ぐことができます。また、進捗状況を横のつながりで共有すれば、タスクの遅延を防ぐこともできるでしょう。目標を定期的に確認することで社員のモチベーションが上がり生産性が向上する点もメリットです。
OKRは個人の技量を評価するものではなく、企業の業績を伸ばすためのツール。人事評価や報酬制度とは完全に分離するようにしましょう。ごちゃごちゃにしてしまうと、報酬のために目標を低めに設定してしまう可能性があります。
OKRを導入するメリットは下記の通りです。役職に関係なく社内全体で同じ目標を共有できるため運用において透明性を確保でき、風通しを良くすることができます。
明確な目標を企業全体で共有できる
社員が目的を常に意識して行動できる
解決すべき課題に対して連帯感が生まれる
チームとして何を目指すのかが明瞭になる
一人の力では達成できないような目標を達成できる
人事評価に影響を受けないため社員が思い切り挑戦できる
OKRが社内の共通言語となりコミュニケーションが取りやすくなる
「現在取り組むべきこと」と「そうでないこと」の取捨選択が容易になる
OKRは、会社が社会に対して果たしたい使命や会社の存在意義である「ミッション」と、将来こうありたいという会社の「ビジョン」に基づいて設定します。
大まかなスケジュールは下記図の通り。何度も繰り返すことで、設定数値が現実的かどうか、目標設定がチームの士気を高める役割を担っているかどうかなどを確認しましょう。
スケジュールはあくまでも目安なので、社内で最適なスパンを設定してください。
まずは最初に企業の目標とリンクさせながら、チームや個人の目標を決めていきましょう。目標は利益や業績を上げる以外にも、顧客満足度を高める、理想を実現するなど、さまざまな目標が考えられます。
目標設定をする際は下記の点に留意してください。
企業にとって最も重要な目標にする
短期間での達成を目指す目標にする
60~70%程度の達成率を見込める目標にする
OKRを設定したら、部門やチーム同士でOKRを共有します。ポイントとしては横のつながりだけでなく上司と部下など縦のつながりでも同じ目標を共有しておくことです。もちろん面談やミーティングなど対面で共有しても構いませんし、クラウドツールを通じてオンラインで共有することもできます。
OKRの運用は1〜2週間単位で行うのが一般的です。OKR運用の際、週のはじめに行うミーティングのことを「チェックイン」といいます。議題は最小限にし、なるべくシンプルにOKRの進捗状況を確認するようにしましょう。
ウィンセッションは、今週のレビューと来週の見通しを決めるミーティングのこと。「Win Session」という名前通り、メンバーの頑張りを賞賛することが主な目的です。毎週同じ時間に開催することで無理のない習慣化ができます。当事者意識を失わないため、参加人数は20名以下にするようにしましょう。
最後に次期OKRを設定します。達成できなかったことを批判するのではなく、どうしたら次回達成できるのかを論理的に議論しましょう。例えば、KRのスコアリングが低かった場合は、そのままにするのではなく次のKR設定のためのデータとして有効活用することをおすすめします。
OKRはGoogleやFacebookなど世界的な企業が次々と取り入れ、日本でも注目を集めています。日本では2015年にメルカリで導入されたことを皮切りに、花王やヤフーなど数々の企業で導入されました。ここでは、代表的な5つの事例を見ていきましょう。
メルカリでは日本で最も早い2015年にOKRを導入しました。OKRを成功させたパイオニアとして知られています。メルカリはOKRを運営するにあたり、従業員同士のコミュニケーションを大切にしたそうです。
花王がOKRを含む組織マネジメント転換を発表したのは2020年12月のことでした。それ以前はKPIを採用していましたが、経営計画「K25」の柱としてOKRへの転換を発表。OKRの取り組みを2021年1月から開始し、3万人以上の社員に浸透させていきました。
参考 : Kao OKR&チャレンジ評価制度
インターネット関連サービスを展開するヤフーでも、OKRは取り入れられています。ヤフーではOKRの一環として1 on 1ミーティングを毎週実施。上司に対して部下が話をするスタイルが取られており、部下の成長を促す取り組みとして知られています。
参考 : OKRにおける1on1ミーティングの目的!ポイントも紹介します
NTTデータは、決まった答えのない領域で柔軟にアイデアを提案できる人材の育成のためにOKRを導入しました。3ヶ月ごとにチームと個人それぞれでOKRを設定する方式で、会社やチームのカルチャーが明文化されるというメリットを感じているそうです。
参考 : NTTデータが取り組む若手の育成改革、カギは「OKR」
スキルマーケットを運営する株式会社ココナラは、目標設定の形骸化という課題を解決するためにOKRを導入しました。ココナラではクオーターごとにOKRを実施。KRは1人あたり2〜3個設定し、達成度を5段階で評価しています。
参考 : OKRの導入だけでは意味がない!会社を成長させる運用法を投資家・前田ヒロ×ココナラCEO・南が語る
ここでは、OKRとMBO/KPI/ノーレーティングの違いをまとめました。
MBOとは個人の自主性を尊重しながら目標を設定し、業績向上を目指すマネジメント手法。OKRの目標は企業の成長、一方MBOの目的は人事評価です。また、MBOの目標設定が年に1回程度であるのに対し、OKRは3ヶ月に1回設定します。
OKR | MBO | |
---|---|---|
目的 | 企業の成長 | 人事評価 |
目標設定 | 3ヶ月に1回 | 1年に1回 |
進捗管理 | 週1回 | 年に2回程度 |
目標の公開範囲 | 会社全体 | 上司と部下のみ |
目標達成基準 | 60〜70% | 100% |
KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)は、最終目標を達成するために必要なプロセスが適切に実施されているかをチェックするための中間指標です。KPIでは部署やプロジェクト単位で実現可能な数値を設定し、100%達成を目的とするのに対し、OKRは企業全体で高い目標を掲げ、60~70%の達成率を目指します。
OKR | KPI | |
---|---|---|
目的 | 企業の成長 | 業績評価 |
定義 | 定量的要素を含む実現可能な目標 | ビジネス目標を追跡する数値 |
ベース | 企業のミッション | 個人の過去の成果 |
設定基準 | 挑戦的な目標 | 安定的な指標 |
実施期間 | サイクルごと | 月単位または年単位 |
ノーレーティング(No Rating)は、社員を点数やランク付けしないという新しい人事評価です。ノーレーティングは上司が部下の仕事ぶりをリアルタイムで把握するために運用されます。一方OKRは報酬などの評価には結びつけず、組織の目標達成を目的とする点で異なります。
SMARTルールとは成果をつかむための効果的な5つの要素です。SMARTルールを知っておくことはOKRのKey Resultsを設定する上で役立ちます。また、設定した目標に向かって前進できているか、PDCAサイクルで確認することも大切です。
目標は、具体的かつ分かりやすく設定します。
(例)Webサイトを開設してCVを100件にする
「Mesurable」は数値化されていることを意味します。
(例)週1回30分マネージャーと1 on 1を実施しトーク力を鍛える
OKRにおける目標の達成度は60〜70%です。目標は達成可能なものを選びましょう。
(例)主力商品の売り上げ前年度比プラス10%
Key Resultsは会社全体の目標に関連しているものでなければいけません。
(例)Objective : 市場で圧倒的なポジショニングを獲得する
Key Results : 顧客単価〇〇円、顧客あたりの獲得費〇〇円を達成する
目標は具体的な期限を決めて設定しましょう。
(例)10月31日までに現在の担当顧客から2名以上の新規顧客を紹介してもらう
ここでは、OKRの設定について悩んでいるマネージャーの方に向けて、職種別のOKR事例を紹介します。
O : セミナー営業で新規顧客企業を攻略する
KR①セミナーの参加企業〇〇社以上
KR②受注率〇〇%を達成する
KR③新規顧客売り上げ〇〇円以上
O : 経営状況をタイムリーにアップデートし社内で共有する
KR①簿記検定合格者〇〇人以上
KR②月次決済日を〇〇日短縮する
KR③月次分析資料提出日を〇〇日短縮する
O : 社員が働きやすくワクワクするようなオフィス環境を整備する
KR①社内環境アンケート回答率〇〇%以上
KR②8月までにリモートワークを徹底させる
KR③クラウド管理システムの利用率〇〇%以上
O : お客様が笑顔になられるような業界最高のサービスを提供する
KR①受電率85%以上
KR②指名顧客数30名以上
KR③お客様アンケートで平均満足度8以上を獲得
O : 「〇〇といえば」と聞かれて最初に思いつく会社になる
KR①市場シェアを5%拡大させる
KR②12月までに顧客数を300人増やす
KR③資料請求を前期比15%増の1000人以上獲得する
各部署の情報をタイムリーに確認するためにも、OKRの管理はクラウドツールで行うことをおすすめします。ここではOKRを視覚的かつ直感的に共有・管理できるツールを3つまとめました。
カオナビはクラウド人事管理システムです。人材不足・生産性向上など包括的に会社の課題解決をサポートします。カオナビを使えば、柔軟にワークフローを組んで評価業務の一部を自動化でき、テレワーク中にもOKRの確認や遂行が可能です。
monday.comはイスラエルの会社によるクラウド型のプロジェクト管理プラットフォーム。業務内容やOKRの共有・管理に適したツールで、コカコーラ社やAdobe社など世界的な有名企業でも導入されています。
Google社が提供する表計算ソフト、スプレッドシートでもOKRは共有できます。データはクラウドで管理され、権限を許可されたメンバーが編集するたびにリアルタイムで確認できます。
これまでOKRについて多方面から解説してきましたが、理解は深まりましたか?最後に5つのQ&Aを通してOKRへの理解の仕上げをしていきましょう。
OKRと人事評価を連動させてしまい、工数が多くなることで運営へのモチベーションが下がってしまうケースがあります。また、立てた目標が達成できない場合は、KRが具体的ではない、戦略が十分ではない可能性が考えられます。
革新的なアイデアの早出を目指している企業にOKRは最適です。一方、事業が成熟期に入っており挑戦よりも安定が求められる企業にはOKRは向いていません。
可能です。OKRは企業全体の目標達成のため、MBOは個々人の人事評価のため、とそれぞれしっかり区別しましょう。
OKRの場合は個人目標であっても、あくまで会社全体の目標と連動するものを設定してください。OKRの個人目標の公開範囲は「会社全体」であることを忘れないようにしましょう。
計画段階でしっかり設計しないと、社員一人ひとりに負担をかけてしまったり、モチベーションを奪ってしまったりする可能性があります。
目指すべき方向を示しチームをまとめるのがリーダーシップ、目標達成のための力を最大化するのがマネジメントです。OKRを導入してしばらくすると、OKRとはO(Objectives)とKR(Key Results)を行き来することだと気づくでしょう。Oを設定する過程で社会的構造の中での企業の存在価値を見出したり、KRを設定する過程で企業として何を本当に達成したいのかが発見できることもあると思います。ぜひ本記事を参考に、組織がより強くなるマネジメントとしてOKRを取り入れてみてください。